ラプラス変換の過渡現象への応用 [1]

1. ラプラス変換の使い道

 ラプラス変換を使うと、微分、積分という複雑な計算を経ることなく、簡単な代数計算によって微分方程式を解くことができるようになります。また、微分方程式というのも、常微分方程式はもちろん、偏微分方程式までも、うまくいけば解くことができる、優れた代物なのです (偏微分方程式の解法についてはこちらを参照)。ラプラス変換を行えば、微分方程式はただの代数方程式へ、そして解が見た目的に悲惨 (長い) なことになる場合が多い連立微分方程式もただの連立方程式へ、といった具合に、微分積分という本来必要だった計算過程が簡略化され、非常に便利です。ラプラス変換などという訳の分からない積分が多くの書籍で多くのページを割いて紹介されているのは、それくらい便利だってことですね。あまりにも桁が大きすぎる計算をするときに、昔の人はコンピュータに向かうことはせず対数で計算していたそうです。ある数は、累乗を整数だけでなく実数に拡張すれば、また別のある数の累乗で表現できるんですね。それによって、大きな桁の計算も捗ったというわけです。このように、1:1 対応する別世界に持って行って計算すると本来の手法よりもずっと楽になる、という点では、ラプラス変換と似ています。実際はフーリエ変換の拡張であるという見方もできるため周波数という物理的な意味を与えることはできるかもしれませんが、フーリエ変換と違って、ラプラス変換の場合は実用上単なる道具の側面が強くそれ自体に物理的な意味を見いだすことに意味が無いことが多いため、ラプラス変換とは一体何なのか、を考えることはあまりしない方がよいと思います (微分方程式を解くときラプラス変換の物理的意味を考えながらやろうがそうでなかろうが、おそらく何の違いも生みません)。高校の時対数とやらをとると桁の大きい計算が楽らしいという事前情報を鵜呑みにしたうえで確かに便利だなと実感してきたはずでしょう。これも、そのようなもの、なんかよく分からない式だけど便利な道具だなくらいに思えばよいのです。
 また、ラプラス変換はその公式から、初期値がつきものです。電気回路の過渡現象においては初期値は必ず自分で見いだせる場合がほとんど (しかも出題される問題はたいてい初期値 0) なので、相性がよく、電気回路では必ずこの話題が扱われます。
 ここでは、簡単な例から比較的複雑な例まで、ラプラス変換を使って電気回路の過渡現象を解析してみます。難易度は勝手につけたのであまり気にする必要はありません。しかしその前に、既に基本的なことは書いてきましたが、いくつか改めて準備を行います。

2. ラプラス変換の定義

 f(t) が、 t ≧ 0 で定義された関数のとき、次の F(s) を f(t) のラプラス変換といいました。

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f(t) をこのようにして加工し F(s) を作り出す演算 (ラプラス変換) を、L(f) と次のように記述します。

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さらに、F(s) から f(t) にあたる関数をこの逆の手順で割り出すことをラプラス逆変換といいます。ラプラス変換は 1 対 1 対応の変換であるため、ラプラス変換後の形さえ覚えていれば逆変換は計算しなくても、割り出すことは容易です。逆変換はちゃんと式が用意されていて、反転公式 (ブロムウィッチ積分) と呼ばれるものですが、まず使うことはないのでここでは書きません。とにかく “1:1対応してるから変換後の形を見たら元に戻せる” と思えばよいです。乗法公式の結果を見つけたらその逆の因数分解をしたよくらいのものです。ラプラス変換は先述の通り同じく 1:1 変換であるフーリエ変換から出発すれば変換、逆変換とも導出可能なものですが、道具の作り方よりもまずは道具の使い方を覚えましょう。ドライバーの作り方を知っていても使い方を知らなかったら何の意味もありません。逆に使い方だけ知っていれば作り方なんてどうだっていいことです。
 初等関数を、定義にあてはめ F(s) を求める細かい手順については、このページにすでに書いてあるので、詳しくは書きません。とりあえず、そこの手順によって得られた初等関数のラプラス変換後の形を、以下にまとめることにします。

3. ラプラス変換表

 最低限覚えておかなければならないラプラス変換の表は以下の通りです。これさえ覚えておけば電気回路のラプラス変換はばっちりのはず。

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他に、単位インパルス関数 δ(t-a) (t=a のときだけ無限大になる意味不明な関数) の F(s) は 1 であることも覚えておけばさらに心強いですね。(証明といえるかどうかわかりませんが、証明はここ)
 たいてい冗長にも 1 ページくらい割いてこの表が載ってることが多いのですが、ラプラス変換の基本性質さえ知っていれば素で覚えておかなければならないのはこれだけです。これ以上は覚えても時間の無駄です。三角関数は円関数とも言われるので分母が円っぽいな、双曲線関数もなんか分母が双曲線っぽいな、とでも覚えておけば問題ありません。ではなぜこれだけで済むのか?その秘密は以下にあります。

4. ラプラス変換の基本性質

4.1. 線形性

 ラプラス変換には線形性があります。定数倍のラプラス変換はその定数を前に出したもののラプラス変換に等しい、複数の項からなる関数のラプラス変換はそれぞれ項のラプラス変換の和に等しい・・・など。積分や微分の基本公式等と共通します。それは、ラプラス変換の定義が積分なんだからそうなるんだろう程度でいいですね。軽く流しましたがこの性質は新しい演算が出てくるたび、証明させられます。それくらい重要だってことは認識した方がいいでしょう。

4.2. 第一移動定理

 移動定理という大事な定理がラプラス変換には存在します。それも二つあるんですが、ひとつめは以下のようです。

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 証明は非常に簡単ですね。ようするに eat を元の関数にかけると s 関数の s は s-a に置き換わる (e-at を元の関数にかけると s 関数の s は s+a に置き換わる、というかたちで乗っている教科書も多い) といっているだけのものです。この性質さえしっていれば上の変換表の f(t) に e-at をかけたときの F(s) がどうなっているかは覚えなくてもすぐ分かるようになります。

4.3. 微分

 微分のラプラス変換は以下のようになります。

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インダクタの逆起電力は電流の微分に比例するので、ラプラス変換するとなるとこの公式は避けて通れません。電気回路においては、ほとんど上の公式だけしか使いません。

4.4. 積分

 積分のラプラス変換は以下のようになります。

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キャパシタの電圧は電流の積分に比例するので、この公式も避けて通れません。f(-1)(0) は、微分の逆という意味なので、ようするに原始関数の初期値とでもいうべきですね。電気回路においては、積分はキャパシタの役目だから、要するにこの f(-1)(0)
とかいうのは初期電荷に相当します。

5. 簡単な練習

5.1. 力学の公式 (物理 I) の導出

物体が等加速度直線運動をするときの、以下の公式を証明しましょう。ただし、初期位置を x0、初期速度を v0 とします。

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 運動方程式が

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ですが、どういう力が働いているかはさておき加速度が一定なので

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という定数でおきます。これをラプラス変換すると、

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ここでいう x(0), x'(0) は初期位置、初速度に他ならないから値を入れ、X(s) を求めると

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ここで X(s) を逆ラプラス変換して

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を得ます。まあラプラス変換で確かに微分方程式は解けるんだろうというのを確認するための練習台ですね。

5.2. 第一移動定理の適用 [1]

 実際の解法への応用方法については、たとえば一次式

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 があらわれた場合、

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と変形できますが、これは第一移動定理を用いて、s が s+(b/a) におきかわっているのだなと考えれば、もとの t 関数は 1 に、e のなんとかがかかっているとみれるので、容易に

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が求まります (上の画像は e の左に 1/a がかかっているのを忘れていました。画像は直ってませんが文字で訂正します。)。これはラプラス変換表にたいてい乗っていますが、別にこの移動定理さえ知っていればいちいち新しいものとして覚えるものではありません。このかたちは RL 回路の過渡現象などで頻繁に現れます。それは、RL 回路の方程式をラプラス変換すると、 (sL+R)I(s) = E/s のようになるためです。

5.3. 第一移動定理の適用 [2]

 次に、二次式

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があらわれた場合、これも大事なので書いておきます。これも RLC 回路や RL 並列回路などでよく出てくる形なので、対処法は知っておくべきですね。二乗があるのだから、三角関数か双曲線関数の s 関数にはなってるだろうなという想像はつきます。その考えをもとに、二乗+二乗 か、二乗-二乗 を分母に作り上げるのです。これを実現するには平方完成しかないですね。

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そう、これは場合分けが必要ですよ。ようするにこれは解の公式を使わずに二次方程式を解く手順に沿っている (分母 = 0 を解けば 実際これはそのまま解の公式の形になる) ので、今平方完成した部分からあふれた定数分、通分すると b2-4ac にあたる部分が正か、0 か、負かで場合分けしなければならないってことです。これがいずれの場合になるか判明していない場合は、電気回路を実際に解く場面においても、場合分けが必要なんですね。面倒過ぎますが仕方ありません。つまり今は

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こういうことになっています。判別式が正の場合、このまま右側の定数分をそのまま定数の二乗とおき、二乗 – 二乗 になっているから双曲線関数の s 関数です。負の場合、マイナスを作用させてプラスにし、右の定数分の分数を逆転させないと定数の二乗とおけないので、二乗 + 二乗のかたちになるから三角関数の s 関数です。0 の場合、たんにこれは t の s 関数。
 言葉でいっても分かりづらいので式に起こしましょう。まず判別式が正の場合、

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ですね (訂正 : 上の画像で sin → sinh)。分母に β がないといけないのでこうやって無理矢理出すというやりかたも知っておくと後で困らない。左に係数としてついているのは α があるので紛らわしいがこれは α ではなくて a 。
 判別式が負の場合は、

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です。0 の場合は、

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ですね。過渡現象の解析においては第一移動定理は避けて通れない道なので、この性質とこれらの対処法は知っておくべきです。

6. 過渡現象への応用

6.1. RL 回路解析 [1] – 難易度 ★☆☆

以下の図において、スイッチを t=0 で閉じたときに流れる電流を求めましょう。

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 回路の方程式は、

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です。式をラプラス変換すると、初期電流がないことから、i(0) = 0 であり、

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となります。I(s) を求めると、

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です。このかたちの分数は、

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というふうになることから (p=R/L)、部分分数展開して

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と、普通に解いた場合 (前回記事参照) と一致しました。このように、ラプラス変換を用いると、積分定数が出ず (積分定数にあたる部分、つまり初期値を事前に確定させているため) 、直接結果が出てきます。

6.2. RC 回路解析 [1] – 難易度 : ★☆☆

以下の回路において、t=0 でスイッチを閉じたとき流れる電流を求めましょう。ただし初期電荷はないものとします。

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 回路の方程式は、

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です。ここで、式をラプラス変換すると、上のほうで書いた基本性質などから、

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となります。ここで、i(-1)(0) とは、i の原始関数の初期値、つまり初期電荷に相当するから、題意より、0 であるので、

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となります。これを I(s) について求めると、

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となりました 。したがって、

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です。

6.3. LC 回路解析 [1] – 難易度 : ★☆☆

以下の回路において、t=0 でスイッチを閉じたとき流れる電流を求めなさい。ただし初期電荷はありません。

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 回路の方程式は、

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これをラプラス変換すると

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となりますが、電流、初期電荷ともに初期値は 0 なので、結局、

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です。I(s) について解くと

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となります。これは、分母が cos, sin のラプラス変換の形をしているから適用できるように式をちょっと変形すると

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なので、ラプラス逆変換により

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ということがわかりました。別に最後のふうにはする必要はないですが、この ω0固有周波数といいます。

6.4. RLC 回路解析 [1] – 難易度 : ★★☆

以下の回路において、t=0 でスイッチを閉じたとき流れる電流を求めなさい。ただし初期電荷はありません。

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 回路の方程式は、

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ラプラス変換すると、

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で、初期値はいずれも例によって 0 だから

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となります。もはやおなじみの手順、 I(s) を求めると

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この対処方法については 4.2 で述べた通りです。要するに場合分けが必要です。この手順に沿ってやっていくと、

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となりました。まず、右の中かっこが正の場合について調べましょう。すると、

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となるので、ラプラス変換が適用できるように形をそろえると

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で、あとは逆ラプラス変換して

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になりました。残りも同じ要領でやってもいいと思いますが、ようするに残りのパターン、0 のとき、負のときは、この解において β → 0、β → jγ (γ = √-(βの中身) ) と置換すればいいだけのことだなので、そうやって簡単に求めれば時間節約です。

6.5 RL 回路解析 [2] – 難易度 ★★★

問題の出典 : 詳解電気回路演習(下) 第四章 – 過渡現象 [18]
 この本ではラプラス変換を用いた解法は第五章にあるため、第四章ではラプラス変換を用いていません、しかし、第五章は過渡現象を解析する問題のパターンがあまり多くないため、練習不足を感じた。そこで、第四章にある豊富な問題もほとんどがラプラス変換を用いて解けばより楽に解けるだろうと考え、さらなる練習として解までたどり着いてみました。というわけでこの解法は完全に本とは別解なのです。

以下の図において、R1を流れる電流と、R2、R3 を流れる電流をそれぞれ求めなさい。

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それぞれに流れる電流を I1、I2、I3 とおくと、二つの閉回路において、以下の網目方程式が立ちます。

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ここで、いずれも下向き電流を正とおいています。網目方程式においては、いずれも右回り電流を正方向としているため、I2 は負になることに注意しなければなりません。(右側閉路の網目方程式を作っているのだが、常識的に考えれば上の図だと I2、I3 はいずれも上から下に流れる。そのため右回りを正と仮定すれば I2 は逆方向ということになってしまう)
 模範解答では、微分方程式をいじりにいじってパズルのように一文字に関する微分方程式に持って行ってそのまま解いているのですが、ここまでの行程が非常に難しいです。正直、私はこんなやり方、答えを見ずにたどり着ける自信は全くありません。この問題をやるのは 2 回目にもかかわらずです。ひととおり過渡現象について学び終えた今分かるのは、そんなことをするまでの着想を得る時間よりは、明らかにラプラス変換で機械的に解いた方が楽であるということですね。そこで、とりあえず I1 は I2 と I3 の和であらわされることから、これを上二つに代入して、

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とします。こうすれば、これはただの連立微分方程式なので、そのままラプラス変換します。なお、それぞれの初期値はすべて 0 であることに注意すれば、結局、

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となります。まず、I2(s) から解析します。これはただの連立方程式になっているから、そのまま・・の前に、めんどうだから Δ だけ計算しておきます。

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別にここまできれいな形に直してから a をおく必要はなく、そのまま s の降べきの順に整理してさっさとおいても答えには全く影響しません。わざわざきれいな形に直したのは模範解答と形式をそろえるため。みてわかると思いますが一番最初の方程式の二番目は、I2 の項を – にしておくことをおすすめします。I3 の方を – にしてしまっても解答には当然影響しませんが、そうしてしまうとうえの Δ の項が全部マイナスになってしまうのでいちいちマイナスがつきまとって死ぬほどめんどくさいです。次に、Δ を加工して、

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とする。このように変形するのには、”s の二乗があるからには平方完成して三角関数あるいは双曲線関数のラプラス変換に持って行きたい” 考えが念頭にあるのを見れば、わかりやすい方針ではあると思います。ここでは、この回路には C が存在しないから、振動的とはならないだろうという知識を用いて、解を sinh, cosh によるものだと予想し、sin, cos ではなく sinh, cosh を作るように加工しました。なお、この α, β について、当然といえば当然 (二次方程式はもともと中学生の頃、高校で解の公式を習うまではこうやって解いていたのだから。)
ですが、 α±β = -(αマイナスプラスβ) は Δ = 0 の 2 解です。したがって、いまのうちに、解と係数の関係から、

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であることは指摘しておきます。
 ここでは極限まで途中式は省略しないという方針にしてあるので無駄にといっていいほど途中式を書いてありますが、実際は省略してしまえる部分も多いため、ノートに起こしてみると本に書いてある模範解答に従うよりも最終的に行数は取っていないことになります。次に、いよいよ I2(s) を求めると、

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となります。左辺はこのまま係数をちょっといじって逆ラプラス変換すればすぐ sinh の項に戻せるのは分かると思いますが、右辺は 1/s がかかっているため部分分数展開しなければなりません。そこで部分分数展開を行います。係数比較法においては、分母が二次式の場合は、分子は一次式としなければならないことにも注意して、部分分数展開を進めます。

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となりますが、ここで上で指摘した

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という関係により、

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とするとよりすっきりします。したがって、

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であることがわかったので、元の式に代入すると、

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となりました。赤いところが注目しどころ。こうすれば全部ラプラス変換表の形なので、あとはそのまま逆ラプラス変換すれば i2(t) は求まって、

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となります。つづいて I3(s) は

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と、I2(s) と全く形がおなじなので単純に I2(s) の R, L の添え字を 2 → 3 とするだけでよく

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となります。一番最初の式から i1 = i2+i3 なので、

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答えと全く同じ形が導けました。
 結論として、どのように解いても結局面倒なんですが、模範解答はかなりこつが要るというか、数学的センスがないと解けない形の連立微分方程式であるため、ラプラス変換で解いた方がこのように機械的にラプラス変換表にのっている形を意識して部分分数展開していくだけでよく、頭を使わなくて済むので、より解きやすいのではないかとは思います。事実、ラプラス変換ではこのように何も見ずに解に到達できましたが、模範解答のやり方は 1 回やったのに今になっても思い出せません。あの微分方程式の解法はもうパターンとしてしっかり覚えないと無理だと思います。そういう意味でもラプラス変換は様々な形の微分方程式に対応できて非常に強力なツールなんではないでしょうか。

「ラプラス変換の過渡現象への応用 [1]」への3件のフィードバック

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  2. 6.4のRLC直列回路において、
    初期値は例によっていずれも0だから
    の次の式で
    Rが抜けてると思われます

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