ベクトル解析 [A] – 内積・外積、基本公式

 ここでは、[1] にちょっとしたことを付け加えておきます。

クロネッカーのデルタ記号

 δij のように書かれる記号 (i,j は添え字) をクロネッカーのデルタと呼びます。

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基本的にこのような意味不明な記号を導入する意義とは、「表記が簡単になること」にあります。たとえば Σ は嫌われる記号の代表格ですが、わざわざ a1+a2+a3・・・ のような表記をしなくてもよくなるので、表記が簡単になっているのです。分かりやすい分かりやすくないかとは関係なく、とにかく、見た目上すっきりすることに意義があります。
 とくに内積や外積といった添え字番号 (基底の方向) が違えば 0 になるような演算が多いベクトル解析では、このような「あるときは1になり(i.e. 値はそのまま)、そうでなければ値は 0 になる」記号はしばしば役に立ちます。
 今までの記事では三次元空間の基底は i, j, k で表記していましたが、ここでは添え字を使う都合上

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の表記を採用します。どちらもよくある表記です。したがって以下用いる i,j,k は基底ではなく、単なる添え字の変数を意味します。三次元で考えるのでそれぞれ 1,2,3 のいずれかをとる変数ということになります。
 あの記号を使うと、まず標準基底同士の内積の表記が簡単になります。それぞれ90度で直角の角度をなしているため、同じ方向の基底同士でなければ、必ず内積は0になってしまいますが、同じ方向なら長さは1なので内積は1になります。つまり

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と表記できるのです。クロネッカーのデルタを認めない場合、このような式を表記するには場合分けが必要ですが、この記号を導入したので、一行で楽に書くことができるようになりました。

内積

 それでは、これを使うと内積はどう書けるようになるでしょうか。その前にアインシュタインの規則と呼ばれる、総和に関する表記方法を紹介します。先に例で出した Σ、ただでさえ表記を短縮しているのに、これをさらに短縮しようという表記法です。簡単に言えば、「ひとつの項で知らない添え字が二回以上出てきたら、それはその添え字の1から3までの総和」というルールになります。これを使うと、たとえばあるベクトル A を、

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と表記できることになります。上の場合、A にも e にも同じ添え字 i が入っているので、この規則が適用できます。三次元である以上、3つの総和をとらなければならないベクトル、これを極限まで簡略化するために作られた記号と理解してもいいかもしれません(実際にそう目的で作られたものなのかどうかは知りませんが)。項を三つ書くのはとんでもなく面倒、シグマすら書くのも面倒、そこでシグマの書式のうちシグマを取り去ってこれ、というわけです。今後、突然知らない添え字が登場しても、次からは「見えないシグマが左に付いていて、添え字は1から3まで足すことになっている」と解釈する必要があります。何もこれは新しい記号が登場したというわけではなく、逆に今まで使っていた記号が消えただけに過ぎません。難しくなったのではなく、楽してよくなったのです。
 これによって、内積が

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と表記できることになります。1から3までの総和をとらなければならなかったのを、極限まで省略した結果です。

レビチビタ記号

 人の名前なのでしょうか、奇妙な名前のレビチビタ記号というものが存在します。これはクロネッカーのデルタよりかなり入り組んだルールなのですが、これを導入するとおそらく書く手間的な意味で最も忌み嫌われている計算の一つであろうあの外積がとても省スペースで記述・計算できるようになります。

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数学らしからぬごちゃごちゃしたルールですが、これはまさに外積を簡単にするためだけに生まれたといってもいい記号です。実際に使い方を見る前に、簡単な計算練習と、基底に関するルールを確認します。計算としては、

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こんな感じです。全部で27通りしかないので全部列記してもいいですが面倒なのでやめておきます。このように、(ijk)=123が1となるのが基本であり、同じ数字が隣り合う隣り合わないにかかわらず重複した時点で0となります。重複がない場合でも、数字を並び替えて123になるのに要した回数が奇数だと-1になります。321は3と1を入れ替えれば123になります。1回要したため-1です。しかし312はまず3と1を入れ替え132、次に3と2を入れ替えて2回で123になるので-1を二回で1になります。
 こんな変な記号を使うと基底同士の外積の表記がここまで簡単になります。

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外積は二つのベクトルが作る平行四辺形の面積 |A||B|sinθ の大きさを持ちます。つまり、内積とは逆に同じ方向の外積をとると 0 になる一方で、違う方向の外積をとると大きさは1になります。向きはいわゆる右ねじの法則、A×BでいえばAからBの方向に回転させてネジが進む方向を指します。基底でこれをやるので、上のように第三の方向 k が登場しているわけです。そしてそれが第三の軸に沿う方向(プラス)か逆向き(マイナス)かを見事に表現しているのがこのレビチビタ記号ということになります。ここで改めて混乱してはいけないのは、今回ijkはただの添え字変数として使っているということです。kは1,2,3どれにでもなります。この場合のkは必ずしもz方向を意味しません。
 外積は積の交換法則は成り立たず、順番を入れ替えるとマイナスがつきます(右ねじの法則から、回る方向が逆になると進む方向も逆になるので明らか)。なので全部で3×3=9通り考えられますが、それがすべてあの一行で済んでいます。特にスマートな証明方法はないのですが、全部で9個しかないので一個ずつ確認すればすぐこれが成り立つことが分かると思います。(ここでは省略します)

外積

 レビチビタ記号を使えば、外積は

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で表記できるようになります。最後の変形は先に出した基底の公式そのものです。第三の基底が登場する形になりますね。

公式

 以下の公式があります。

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内積がクロネッカーのデルタなら、外積はレビチビタ記号、そしてこの公式はクロネッカーとデルタとレビチビタ記号の橋渡し的な公式になっています。つまり、内積と外積、両方が絡む公式に使えるということです。それはどんな公式かというと、ゴールとしては

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を示すことにあります。これは実は [1] で既に示しましたが、幾何学的な考察+かなりの量の計算が必要で、正直いってお手軽では全くありません。たいていの解説書では多くの場所を要して証明しています。しかし、これを何も考えずしかもとても早く出す方法が存在します。それに必要なのが

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という公式というわけです。とはいうもののこれだけいろいろ変な記号を導入した上にこんな公式まで考察して覚えた上なら総合の手間は似たようなものではにかと思うかもしれませんが、これらの記号は他の場所でも役に立つので、今回のためだけに導入した記号、公式とは思わず、ここまでは基礎知識として是非覚えておきたいところです (たぶんクロネッカーのデルタは初等レベルの線形代数でも見ることがあると思います)。
 いろいろな人工の記号があるなかでも、特に人工色が強い記号なので、綺麗な証明方法は存在しませんが、右辺は i に関係ないので、実質j,k,l,m、つまり3の4乗=81通りを調べればよいということになります。しかし、実際には81通り調べる必要はありません。
 まず、左辺のレビチビタ記号は数字が重複すれば0になります。j=kまたはl=mであれば、左辺はすぐ0と分かります。このとき右辺も、j=k=l=m であれば 1-1=0、そうでない場合は全部 0 です。81通りのうちこのパターンは45通りに該当します。j=kを同じ数字で固定するとl,mは9パターンの自由があり、j=kが11,22,33になる3パターンとあわせ27通り、また逆にl=mを固定する場合で27通り、合計54通りですが、いずれもj=k,l=mで揃う場合を重複してしまっています(たとえば1122,1111,3322といったパターン)。これは左が11,22,33で揃う場合、右が11,22,33で揃う場合で9パターン存在するので54-9=45パターン計上したことになります。
 次にj≠kかつl≠mであるとき、jがl,mと異なるのであれば、左辺のilmの方のレビチビタ記号が0にならないためには、必然的にiはl,mと異なる必要があり、値の選択肢は3つしかないためi=jとなります。こうなれば自動的に左辺はもう片方のレビチビタ記号のせいで重複し0になり、右辺も0になります。このパターンはj≠l≠mかつk≠jに該当し、3つが異なるパターンは全部で6通りあり、さらにk≠jとなるにはjと異なるパターンが全部で2つあるので(3つのうち1つはjが占めているから)、12パターン、これがもう片方のレビチビタ記号つまりk,l,mでも同じことがいえるので24パターンに該当します。ここまでで69パターンです。
 結局、上記以外のパターン、すなわち j≠k かつ l≠m で、 (jk)=(lm)または(ml) の場合のみが残ります。前者で6パターン後者で6パターン、これが最後の12パターンです。この場合だけ、両辺の値は1または-1になります。(jk)=(lm)であるとき、左辺はiが1から3までの総和を意味するので(アインシュタインの規則)、結局iはjk,lmの組み合わせに登場しない第三の添え字のときだけが残り、その時の値は同じ並びを二回かけることになるため1になります。右辺もj=l,k=mであるため1になります。(jk)=(ml)の場合、左辺は一方のレビチビタ記号を一度入れ替えなければならないため-1となり、右辺はj=m,k=lなので右の項だけ生き残り-1となります。以上ですべてのパターンを調べたことになります。
 

ベクトル三重積

 A×(B×C) をベクトル三重積と呼んでいます。これには

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という公式があります。今までのよく分からない記号遊びを使えば、これを証明することがかなり簡単になります。

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外積は第三の基底を登場させればいいだけ。機械的に処理できます。しかもこの二つのレビチビタ記号にはlが共通しているので、先ほどの公式が使えます。うまく使えるように入れ替えて公式を適用すれば

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までいきます。両方の記号でlが先頭に来るよう1度ずつ入れ替えたので-1が二回かかり、符号はつきません。一番最後かっこで囲った部分はまさに内積の定義になっているので、これを内積に戻します。

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で、公式が示せます。最後の変形は、j,mともに1から3までの総和をとっているので、Σがちょうど二つ重なっているような状態、積分でいうならば累次積分のような状態になっています。まずBだけ展開すれば、B1δ1m+B2δ2m+B3δ3mのように出てくるので、次にmを1から3まで総和をとれば、結局B1e1+B2e2+B3e3=Bベクトルだけが残ることが分かります。

「ベクトル解析 [A] – 内積・外積、基本公式」への1件のフィードバック

  1. 外積とかかなり遠い記憶をたどりながら、シミュレータを作っています。多数の粒子を無重力空間に置いて互いの引力だけで引き起こされる挙動を再現したいのです。
    粒子同士が衝突すると結合あるいは合体して大きな粒子へと成長する物理モデルです。YouTubeにも「星の誕生?シミュレーション」として投稿しました。
    結合粒子の回転(一応回転軸を2つもたせてありますが)は、苦労したところですが、いまだ未完成といったところです。
    数学的な根拠をといろいろ調べているのですが、そこで貴君のページに出会いました。大変参考になりそうですが難しいですね。
    ありがとう。

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